就職の解説
環境都市系卒業生の職域
概 要
環境都市分野は,その歴史をさかのぼれば,名古屋高等学校・土木科(明治38年創設)にたどり着きます.これまでに,7300名以上の卒業生を社会に送り出してきました.卒業生の進路先は,1)技術系公務員や公共団体,2)建設産業やコンサルタント産業,3)運輸・交通産業,4)鉄鋼・橋梁産業, 5)セメント・コンクリート産業,6)エネルギー系産業,7)一般企業 などに大別され,いずれの職域においても,本プログラムで身につけた環境都市形成のための広範囲なものづくり工学技術力を武器として活躍されています.なお,学部卒業の後に大学院へ進学する学生も多く,より高度な専門技術を習得した後に就職することも奨めています.
職域の分類と内容
環境都市系の先輩方が実際に勤務している職域を紹介します.
1)技術系公務員や公共団体, 2)建設産業やコンサルタント産業, 3)運輸・交通産業,
4)鉄鋼・橋梁産業, 5)セメント・コンクリート産業, 6)エネルギー系産業, 7)一般企業
まず,国土交通省でいうと,職域として主として関係する局は,土地・水資源局,道路局,自動車交通局,都市・地域整備局,北海道局,国土計画局 河川局,鉄道局,港湾局など多岐に及びます.さらに各地方にその地方組織として地方支分部局(この地域では中部地方整備局など)があり,その下に同様な組織の課部局があり,それぞれの地域の社会基盤施設の整備維持を担当しています.国の組織としては,そのほかに農林水産省や環境省といった省庁にも職域は広がっています.
地方公共団体(全国の都道府県市町村)でも同様な部局があり,建設企画,用地,都市計画,都市整備,交通政策,公園緑地,下水道,道路維持,道路建設,河川,砂防,港湾,水道計画,水道事業,用地造成,企業誘致などの名称がついている部課 (各県市町村で名称は異なります)が職域になります.
これらの職域は,環境都市系からは技術系の土木職の枠で応募している公務員試験(教養科目,専門科目と面接)を受けて,合格採用されることになりますが,その専門試験問題は,土木工学の学問体系の問題であり,環境都市分野でカバーしているものです.
公共団体の職域には,水資源開発機構,都市再生機構,名古屋港管理組合,首都高速道路,名古屋高速道路公社, 阪神高速道路公社などがあり,それぞれ特定の社会基盤施設について整備管理運営を担っています.これらの就職は,土木工学の専門科目の試験と面接等により採用されます.
大手建設会社(ゼネコン)の大成建設,鹿島建設,清水建設をはじめとする建設会社では,国,地方公共団体等,行政から出される様々な社会基盤施設関連の課題に対処するため,社会基盤施設の企画提案(プロポーザル)から設計,労働力・材料・建設機械確保,施工・建設および,維持管理関連業務を行います. 当環境都市分野の先輩も多く働いていますが,卒業生が現場でおこなっている主な仕事は,企画書のとりまとめから始まり,担当行政機関との調整,構造設計とそのチェック,安全・環境管理,工程管理(労働者,材料,建設機械等の適材適時配置),施工管理(巨大加重がかかっているので建物のわずかな傾きや材料の強度不足が及ぼす事故防止や品質維持などの監督),原価管理などによるプロジェクトマネジメントが主な仕事になります.
すなわち,比較的大きな現場でみると,建設会社の技術者(本学卒業生がこれに当たります)が10名程度,現場監督として配置され,実際に工事を行う専門工事業者が100名程度配置されます.この現場監督10名は,100名の工事業者の方々を指揮監督して,協力を得ながら建設をマネジメントすることになります.建設が進むにつれて変化する条件(天候,地質,環境,)に対しては,現場管理で培った実践的な知識と技術によって,より安全性,経済性に加え,環境に配慮して施設を完成できるように,適宜行政と提案・調整しながらマネジメントすることが仕事になります.
コンサルタント産業は,建設事業は行わないですが,社会基盤施設整備に関わる,地盤,地形,水理,交通量,土地利用,法制度,環境,住民意識等の調査や分析,施設計画,構造設計,経済性評価,環境評価などの調査,分析,報告書等へのとりまとめを専門的に行います.国土都市計画,交通計画等では,街の将来像と今後行っていくべき様々な都市政策の策定について,行政とともに,その専門的技術力を発揮しながら,検討します.
大手ゼネコンではこのコンサルタント業務も建設事業に含めて行いますが,企業によっては,建設事業とコンサルタント業務について分業体制をとっているところや,海洋事業や海外事業を得意としているところなど,特色があります.
地下鉄・市営バスなどの公営企業とJRなどの民営企業があり,環境都市系から採用された先輩方は,東海地区の鉄道営業路線でみても,延長2400km以上に及ぶ線路や鉄橋,及び,700箇所以上の駅ターミナル施設の計画・建設・維持・運営業務に当たっています.主な職域に,安全対策,建設工事,事業推進,管財,総合技術,総合企画,工務,施設などの名称をもつ部署があり,業務内容としては,施設系等の調査・計画,建設,保守,技術開発,リニア開発など,環境都市系の建設技術をもって活躍できる職域が,組織全体でみると比較的大きな範囲で広がっています.
まず,鉄鋼産業でみると,新日鉄,JFE,住友金属をはじめとする鉄鋼メーカーにおける環境都市系卒業生の活躍の場には,建材技術部門,設備技術部門,エンジニアリング部門があります.
建材技術部門では,トンネル・橋梁・河川・港湾施設などのあらゆる分野において付加価値の高い商品・工法を提供し,社会基盤整備に貢献しています.基礎的な研究から商品開発,市場定着に向けた技術提案活動までを一貫して行っており,実験・解析などの固有技術や,営業センス・マネジメント力を含む総合力が必要とされる部門です.
設備技術部門では,製鉄所設備の計画,設計,調達,工事管理,さらには維持補修を行っています.製鉄所には製鉄設備に加え,鉄道,トンネル,港湾施設,橋といったあらゆる土木施設が存在し,幅広い技術力が必要とされる部門です.また,国内鉄鋼メーカーのもつ設備技術は世界トップクラスであり,海外メーカーの工場建設などに積極的に技術協力を行っています.
エンジニアリング部門では,建材技術や設備技術で培った独自技術を活かして,天然ガス・石油関連インフラやパイプライン,橋梁などの国内外のプロジェクトの設計・施工を行っています.施工現場では様々な状況においてスピーディな対応が要求され,専門的な知識・技術に加え,それらを柔軟に組み合わせる能力が必要とされる部門です.
橋梁産業:次に橋梁産業をみていきます.インフラとして身近で重要な鉄道網,道路網の一部として橋梁構造があります.橋梁には鋼構造,コンクリート構造および複合構造があり,ここでは主として鋼構造について説明します.本四架橋を頂点として世界一の技術が構築され,非常に専門的な知識・技術が要求されています.計画部門では路線計画から設計までのコンピュターの利用を中心とした技術部門,施工(製作,架設)部門では,鋼特有の技術,溶接,防錆,計測,および現実的な架設工法など専門的で経験を重視した技術部門があります.最近では,既存の橋梁に維持管理補修を加えて,より長期間供用でき,かつ,環境に配慮した技術研究が進められています.
セメント産業は,建築物・土木構造物(上下水道・河川・ダム・交通施設(道路・鉄道・空港・港湾設備・トンネル・橋梁 等))等,社会基盤施設を建設する代表的な材料である「セメント」およびセメントを原料とした応用商品を製造・販売する産業です.大部分のセメントは,水・骨材(および混和材料) と練り混ぜられて「コンクリート」として使用されます.コンクリート産業は,コンクリート自体およびコンクリートを材料として工場で製造されるコンクリート製品(パイル,ポール,ヒューム管,ALC製品,ブロック類,板類,枕木,桁 等)を製造・販売する産業です.
近年,コンクリートおよびコンクリート製品の性能には,従来からの強度の向上だけでなく,耐久性・施工性等の高度な性能の向上や品質の安定性等も要求されるようになってきました.このような高度な要求に応えるために,新規なセメント材料の開発や,従来のセメント材料の改良,さらには, これらの材料を現場で使用する場合の技術的支援が行われています.また,コンクリート製品を製造する工場においては,コンクリートの性能を向上させる新規な材料の使用のほか,コンクリート自体の製造方法やコンクリート製品の成型・養生方法など,生産技術の開発・改善が行われています.
当環境都市分野の卒業生は,本プログラムで習得した高度な技術力を駆使して,このような材料の開発や製造現場での応用に活躍しています.
中部地区におけるエネルギー産業をみると,その就職先は主として中部電力,東邦ガスに代表されます.
電力会社で見ると,中部電力管内で水力発電所が182ヶ所,火力発電所が11ヶ所,原子力発電所が1ヶ所,送電線が12,212km,変電所が937ヶ所あります.本プログラムの卒業生が携わっている主な職域には,発電所,変電所,地中送電線関係の土木構造物建設に関する計画,設計,発注,工事管理業務があるとともに,発電所の土木設備に関する運営,管理などの業務があります.配属先は本・支店技術部,電力センター,ダム管理所,火力発電所,原子力発電所などがあります.近年では,国際事業部が進める,海外における火力発電所や水力発電所の投資案件に対する参画,電力インフラ整備などに関するコンサルタント業務への技術支援も行っており,幅広く活躍されています.
都市ガス会社における環境都市系の仕事には,ガス製造設備や導管網に関する基本施策企画立案・設計・工事管理・運用・維持管理・防災・技術開発,および都市エネルギーや産業エネルギーに対する基本施策立案・需要開発・エンジニアリングなどがあります.
名古屋を中心とした東海エリアを供給区域とする東邦ガスには,工場が5ヵ所,供給所が12ヵ所,導管延長がおよそ26000kmあり,代表的な大規模工事として地下式LNGタンク建設,幹線導管用シールド工事があります.環境都市系卒業生の配属先としては,技術部,供給管理部,供給防災部,導管保全部,産業エネルギー営業部,ソリューション営業部等の部署があり,幅広い分野で活躍されています.
職域写真: 地下式LNGタンク建設 大規模ガスパイプライン建設
通信産業ではNTTが代表されます.情報インフラである光ファイバ等を収容する『基盤設備』として,東海4県下には,通信トンネル形式のものが180km,埋設管形式のものが13,000km,通信ケーブル専用橋が600箇所あります.これらは,電電公社時代から構築してきたものであり,現在はNTTのみならず様々な通信キャリアで活用して頂いています.
『基盤設備』に関わる職域としては,道路管理者・行政等との占用調整,長期構想に基づく設備グランドデザインの策定,中期並びに単年度の投資計画の作成,個々の工事の基本設計・発注計画,積算・契約・施工管理,設備の定期点検・診断・補修 等があります.
配属先は,本社・支店の設備部を中心として,ソリューション営業部,経営企画部,更には専門のグループ会社の各部署で上記職域を実践するとともに,会社経営層としても活躍されています.また,近年では,街づくりや環境貢献等に関わる事業の開拓にも,積極的に取組んでいます.
国際開発機構(JICA):海外での活躍の場としては社会基盤整備が多いですが,環境都市系で身につけた技術・ノウハウをもって,海外での技術支援プロジェクトのマネジメント(計画・指揮・監督)を行っています.
自動車系会社,石油プラント系会社,情報系会社:大規模工場・プラント施設建設に携わったり,社会基盤施設関連のシミュレーション技術を活かした職域となっています.
土木系の同窓会「名工大CE会」に入会してください.先輩諸兄から実社会,仕事について話を聞くことができ,また将来に続く人的ネットワークを築くことができます.